# AIに「なぜだと思う?」と聞いてもうまくいかない
「AIに聞いてみたんですけど、たいしたこと言わないですね」こう言われることがあります。そのとおりです。聞き方が悪いわけではなくて、聞かれたAIの手元に何も無いので、世間一般の話を並べるしかないんです。
今回お話ししたいのは、質問の文章を磨く話ではありません。質問の前に何を渡しておくか、それだけで答えが別物になるという話です。
先にお断りしておくと、これ、ものすごく当たり前の話です。当たり前なんですが、僕もスマホでAIを開いた瞬間に忘れます。相手が全部知っている前提で聞いてしまうんですよね。なので今回は、僕自身への念押しも兼ねてお話しします。
まず、聞き方を1か所だけ変えました
先日、治療院の先生方の会議で、こんなご相談がありました。電子カルテにして1年。毎月のレポートの集計も、その場で次の予約を取らなかった方への連絡の抜き出しも、もうAIに任せておられます。そこまでやってみて、「このカルテのデータを応用して、ほかに何かできませんか」というご質問でした。
1年分、お客さん一人ひとりの記録が溜まっている。これ、かなり良い状態なんです。なぜかというと、聞きたいことの答えが、もう手元にあるからです。
「どうしてだと思いますか」が空振りする理由
たとえば、来なくなったお客さんのことを知りたいとします。ここで多くの人がやるのが、こういう聞き方です。「うちはこういうケースで、来なくなる人が多いんです。どうしてだと思いますか」
これ、うまくいかないんです。AIは、あなたのお客さんを一人も知らないからです。知らない相手のことを聞かれたら、世間で言われていそうな理由を並べるしかありません。どこかで読んだような答えが返ってきて、がっかりしますよね。
でもこれ、AIが賢くないからではないんです。材料を渡していないから、材料無しで答えているだけなんです。
初めて会った人に、同じことを聞いたら

人に置き換えると、すぐ分かります。初めて会った人に「うちのお客さん、なんで来なくなると思います?」と聞いたら、どうなるでしょう。相手はあなたの店を見たことがありません。どんなお客さんが来ているかも知りません。それでも聞かれたら、「まあ、最近はどこも厳しいですからね」ぐらいのことは言ってくれます。気を使って、当たり障りのない一般論を返してくれるわけです。
AIに起きているのは、まさにこれです。昨日どんなお客さんが来たか、AIは知りません。聞いている側は、知っているつもりで聞いています。このズレが、「たいしたこと言わない」の正体です。
記録を渡してから、同じことを聞くと
では、同じ質問の前に、お客さん一人ひとりの記録を渡しておくとどうなるか。先ほどの先生の場合、電子カルテには、来たときに聞き取った内容の要約が入っています。それが1年分あります。
その状態で「この記録の中から、来なくなった方の傾向を出してください」と頼みます。聞いているのは同じ「なぜ」なんですが、AIの動きが全く変わるんです。世間の話ではなく、あなたの記録の中から理由を探し始めます。
会議でもお伝えしたのですが、「何々町の人に来なくなる方が多い」みたいな住所や年齢の話をしたいわけではありません。来たときに何を訴えていて、どんな経過をたどった人が、来なくなっているのか。記録の中身から傾向を拾う。これは、渡した記録があって初めてできることです。
データがあるかないかで、AIの挙動は全く別物になります。聞き方を変えたのは1か所だけです。「どうしてだと思いますか」を、「この記録から傾向を出してください」に変えただけ。違いはそこだけなんですが、その手前に記録を渡してあるかどうかで、返ってくる答えが決まっています。
次に、出してもらうものを3つに増やしました
記録が渡っていると、聞けることが一気に増えます。来なくなった理由だけで終わらせるのはもったいないですよね。先生には、その場で3つ挙げました。
- 来なくなった方に共通していること
- 戻ってくる月が決まっている方
- 紹介がつながっている一群
順番にお話しします。
離れていった人に共通していたこと
1つ目は、さっきの続きです。来なくなった方を並べて、記録の中から共通点を探してもらいます。来たときに訴えていた内容なのか、通っていた期間なのか、途中の経過なのか。こちらが仮説を立てなくても、記録があれば、AIのほうで並べて比べてくれます。
これが分かると、次に同じ訴えで来た方への対応が変わりますよね。来なくなる前に、手を打てます。記録を渡す前には、絶対に出てこなかった答えです。
戻ってくる月が決まっている人
2つ目は、逆側です。一度来なくなって、また戻ってきた方。この方たちの記録も溜まっているので、いつ戻ってきたかを並べてもらえます。
たとえば、やたら12月に戻ってくる人が多いと分かったとします。そうしたら、やることは決まりますよね。12月に向けて、11月にダイレクトメールを送る。戻ってくる理由を当てにいかなくても、戻ってくる月が分かれば、先回りできるんです。
紹介がつながっている一群
3つ目は、紹介です。誰の紹介で来たかが記録に入っていれば、たくさん紹介してくださる方が誰なのか、AIが見つけてくれます。「この方の紹介グループ」というまとまりが見えてきます。「今月はあの方のご紹介が濃かったですね」という見方ができるようになります。
これも、記録を渡していなければ、一生出てこない話です。あなたのお客さんの誰が誰を連れてきたか、AIは聞かれても知りようがないですから。記録を渡した瞬間に、知っている相手になります。
書き方がばらばらでも読める理由
ここまで読んで、「うちの記録はそんなにきれいに残ってない」と思われた方。大丈夫です。その先生の電子カルテも、一語一句を正確に打ち込んでいるわけではありません。それでも、特に初めて来たときの分は、結構な量の情報が入っています。AIは、その量があれば読めます。書き方が揃っていなくても、項目が抜けていても、記録として残っていれば読みます。整えてから渡そうとすると、いつまでも渡せませんからね。
さらに言うと、記録はカルテだけではありません。その先生のところでは、お客さんへの連絡にLINEを使っています。記録とLINEのIDがつながっていれば、どんな相談をしてきたか、どのくらいの頻度で送ってくるか、「この方はいつも予約がギリギリ」というところまで、一人分として引き出せます。会議で僕はこれを「データプール」と呼びました。一人ひとりについて溜まっているものを、全部ひとつの場所に置いておく。そこに向かって聞くから、答えが自分の商売の話になるんです。
最後に、渡すものそのものを変えました
ここまでは、お客さん一人ひとりの記録がある商売の話でした。「うちには、そういう記録が無い」という方もいらっしゃると思います。

相手の記録が無い商売の場合
同じ会議で、もう一人、別の先生からご相談がありました。この方はYouTubeで発信をされていて、ご自分の動画を200本ほど見直しているところでした。お客さん一人ひとりの記録ではなく、こちらから出したものが200本ある。そういう商売です。
ここで「どんな動画を出せばいいと思いますか」とAIに聞いても、さっきと同じことが起きます。AIはあなたの動画を1本も見ていません。だから、世間で言われている動画の作り方を並べるしかないんです。
でも、渡せるものはあります。動画そのものを文字に起こしたものと、それぞれの動画の視聴データ。この2つはもう手元にあるんです。自分で出したものと、それに相手がどう反応したか。このセットが揃っていれば、相手が何を望んでいるかは、はっきり出ます。
動画を200本見直していた方に頼んだこと
その方に、その場でお願いしたのは一つだけです。YouTubeの動画の書き起こしを、丸ごとフォルダに入れていってください。それだけです。
内容を整理してからとか、要約してからとか、そういうことは一切要りません。書き起こしと視聴データ。この2つがフォルダにあれば、次に何を出せば喜ばれるかを組み立てられます。そこまで放り込んでもらえば、あとはこちらで何とでもなります。
200本を一本ずつ見直すのは、しんどいですよね。その見直しをAIにやってもらうための材料が、書き起こしなんです。
今日、フォルダに放り込むもの
では、あなたの商売では何を渡せばいいのか。考え方は一つです。AIに聞きたい質問の、相手側の記録です。
来なくなったお客さんのことを聞きたいなら、来なくなったお客さんの記録。どんな発信をすればいいか聞きたいなら、これまでに出した発信と、それへの反応。質問の相手が誰なのかを考えると、渡すものは自然に決まります。
何を残しておけばいいかの中身は、以前、別の記事に書きました。今日お伝えしたかったのは、その手前の話です。AIの答えが一般論で終わるとき、直すのは質問ではありません。渡している材料です。渡せば、AIはあなたのお客さんを知っている相手になります。「たいしたこと言わない」が「そこまで見えてるんだ」に変わる瞬間を、ぜひ一度、ご自分の商売で体験してください。
