「あの時は腹が立ったのに、あとで録音を聞き返したら、お客様はちゃんとお礼を言っていた」。今回は、商談や接客の録音を聞き返すと何が見つかるか、というお話です。僕自身、その場でちゃんと相手の話を聞けている人間ではありません。むしろ、聞き逃していたことに後から気づかされている側です。
腹が立っていた相手が、聞き返したらお礼を言っていました
その場の自分は、感情のフィルター越しに相手を見ています
商談や接客の最中って、目の前の会話をさばくのに精一杯ですよね。相手の言葉を、その瞬間の気分でそのまま受け取ってしまいます。
僕にもありました。商談の最中に「なんだこの人は、腹が立つな」と思っていた相手がいたんです。ところが後から録音を聞き返してみたら、その人はちゃんとお礼を言っていました。言われていないと思っていた言葉が、そこに入っていたわけです。
なんでこんなことが起きるのか。理由はシンプルで、その場の自分は感情というフィルター越しに相手を見ているからなんですね。
- 緊張している
- 次に何を話そうかと考えている
- 少しイラッとしている
このどれかが働いていると、相手の言葉がまっすぐ耳に入ってこないんです。耳では聞いているのに、頭のほうが受け取っていない。そういう状態です。
で、厄介なのは、本人がそれに気づけないことなんですよね。自分では、ちゃんと聞いたつもりでいます。「今日の商談は手応えがなかった」という記憶だけが残る。その記憶をもとに、次の一手を決めてしまうわけです。
録音を聞き返すというのは、この記憶のほうを疑ってみる作業です。自分の耳を二回通す、と言ってもいいかもしれません。一回目はその場で、感情ごと聞いている。二回目は落ち着いてから、言葉だけを聞く。この二回目でようやく、相手が何を言っていたのかが見えてきます。
勉強会でも、同じ話でうなずく方が多かったところです
この話、勉強会でお伝えしたときに、うなずく方が多かったところでもあります。「あれ、思い当たる」という顔をされるんですよね。
そりゃあそうだと思います。これは特別な人に起きることではなくて、人間なら誰にでも起きることですから。記憶力の問題でもありません。その瞬間の自分の感情が、相手の言葉の一部を通さなかった。それだけの話なんです。
そしてここが商売の話につながります。その場の印象だけで相手を判断すると、お客様の評価そのものを取り違えるということですよね。本当は満足していた方を「反応が悪かった」と記憶してしまう。逆に、愛想よく応じてくれただけの方を「手応えあり」と数えてしまう。
こうなると、次に何を直せばいいのかが分からなくなります。材料になっている記憶のほうが、そもそもズレているわけですから。努力の方向を、感情で決めていることになるんです。しかも、決めた本人にはその自覚がありません。
うまくいかなかったやり取りのほうが、宝の山でした
一生懸命説明したのに飲み込んでもらえなかった場面こそ知見です
聞き返す価値があるのは、うまくいった会話だけではありません。むしろ、うまくいかなかったやり取りのほうが宝の山です。
たとえば、相手に何かを一生懸命説明したのに、どうも飲み込んでもらえなかった。そういう場面って、その場では「今日はダメだったな」で終わらせがちですよね。気持ちも沈んでいますから、思い出したくもない。録音があっても、そこだけは開かない。よく分かります、僕もそうしたくなります。
ですが、これこそが立派な知見なんです。
うまくいった商談って、聞き返しても学ぶところが案外少ないんですよね。話が通ったから通った、で終わってしまう。なぜ通ったのかは、相手の側の事情かもしれません。一方で、通らなかったほうには理由がはっきり残っています。どの言葉から先が伝わっていないのか。どこで相手の声のトーンが変わったのか。録音には、それが残っています。
その場では、悔しさや焦りが先に立って、そこまで見えません。落ち着いてから聞き返して、はじめて分かることです。これも、さっきのフィルターの話と同じ構造ですね。
「この説明の仕方だと伝わらない」が、次の商談と発信にそのまま生きます
聞き返して見つかるのは、たいていこの形です。
- この説明の仕方だと伝わらない
- この相手には、この順番だと響かない
- ここで専門用語を出した瞬間に、話が止まっている
どれも、次の商談でそのまま使えますよね。言い換えると、失敗した一件が、次の一件の準備になっているということです。
しかも、これは商談の中だけの話で終わりません。その場で飲み込んでもらえなかったということは、同じところでつまずいている方が他にもいるということなんです。だったら、そこを丁寧に説明したものを発信すればいい。うまくいかなかった記録が、そのまま記事や案内の中身になります。
前の記事で「うまくいかなかった記録こそ残してください」と一行だけ書きました。その理由が、ここです。
失敗した商談は、記憶からも記録からも消してしまいがちですよね。残すのは成功事例ばかり。ですが、よそにない材料になるのは失敗のほうなんです。
うまくいっている部門より、うまくいっていない部門を見たほうが、直すべきところは早く見つかりますよね。あれと同じ話です。
ですから僕は、感触の悪かった商談ほど残すようにしています。気は進みませんけどね。その日のうちに聞き返さなくてもいいんです。落ち着いてからでいいので、消さずに置いておく。それだけで、後から使える材料になります。
だから、目と耳で残せるものは全部残しています
録音・アンケートの生の声・ビフォーアフターの写真
じゃあ、具体的に何を残しますかって話ですよね。僕の答えは「目と耳で残せるもの、全部」です。
- 商談や接客の録音
- お客様アンケートでいただいた生の声
- ビフォーとアフターが分かる写真
形は音声でも写真でもテキストでも構いません。残せるものだけ残しておく、という程度の話です。
とくに見落とされがちなのが、アンケートの生の声です。せっかくお客様が言葉にしてくれたものを、集計して終わりにするのはもったいないんですよね。「満足」が何割、で片付けてしまうと、その方が書いてくれた一文が消えます。数字は後からでも出せますが、あの一文はあの時しか手に入りません。
写真も同じです。仕事の前と後が分かるものは、その場で撮っておかないと二度と撮れません。終わってから「撮っておけばよかった」と思っても、もう前の状態は残っていないんですよね。
大げさに構えなくても大丈夫です。「今日はお客様がこんなことを言っていたな」と一言メモしておく。それだけでも、立派な材料になります。僕も、そのくらいのことしかやっていません。
整理はしなくていい。書き起こしをそのまま渡すだけです
ここまで読んで、「貯めても整理が大変そうだ」と思われたかもしれません。そこは安心してください。整理は、しなくていいんです。
これは前の記事にも書いたことですが、僕は書き起こしをそのまま投げて「清書して」と頼むだけです。フォルダを細かく分けて、几帳面にラベルをつけて、という作業はやっていません。やりたい方がやればいい話であって、必須ではないんですよね。
手書きのメモも同じです。きれいに書き直す必要はありません。ある程度の字であれば、今のAIは読み取ってくれます。乱雑なままでいいので、とにかく捨てずに渡す。これがいちばん続くやり方だと思っています。
そうなんです。続かない仕組みは、たいてい入口に手間を置いているんですよね。きれいに整えてから保存する決まりにすると、忙しい日から順に抜けていきます。だったら入口をゆるくして、面倒な部分を後ろに寄せる。後ろは機械が引き受けてくれますから。
まずは次の商談をひとつ録音してみてください
始め方は、これだけで十分です。次の商談か接客を、ひとつ録音してみてください。そして時間のあるときに、聞き返してみる。
全部を聞き直さなくても構いません。自分が説明していたところと、相手が黙っていたところ。そのあたりだけでも、その場では見えなかったものが出てきます。まずは一件やってみて、何か見つかったら続ければいいと思います。
僕の場合、これで商談後の思い込みが減りました。なくなったわけではありません。今でも聞き返して「そんなことを言われていたのか」と気づくことがあります。ただ、気づけるようになった分は、次に回せています。
それともう一つ。こうやって貯めた記録は、そのまま記事の材料にもなります。そちらの話は別の記事で書きましたので、興味があればそちらをどうぞ。
「うちの場合、何を、どう残していけばいいのか」を一緒に考えてほしい方は、AI Team by MeisterSupport のLINE、またはお問い合わせフォームからご相談ください。業種によって残すべきものは変わりますので、御社の仕事に合わせたところからお話しします。
